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東京高等裁判所 昭和37年(う)2577号 判決 1963年4月12日

被告人 田辺太郎 外二名

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

控訴趣意第一点、事実誤認の主張について。

所論は、原判決は、被告人等は成岡清一外三六名と共謀の上自家用自動車を使用し他人である一般の乗客山田敬子等の需要に応じこれを旅客として乗車させて運送し、運賃を収受して、一般乗用旅客自動車運送事業を経営した旨の事実を認定しているが、右は事実を誤認したものである。すなわち、被告人等は、東京都タクシー運転者共済組合なる名称の組合を結成したものであつて、同組合に所属する組合員であり自家用自動車の運転輸送に従事する成岡清一外三六名(以下専従組合員という)をして、一定書式の「加入申込書」に住所氏名を記入して組合に提出し組合より「組合員証」の交付を受けて組合員となつた特定人である山田敬子等約一〇九一九名(以下一般組合員という)を乗車させ輸送したものであつて他人である一般の旅客の需要に応じてこれを運送したものではない。又輸送の際収受した金員は乗車した一般組合員が組合維持費に充てるため組合費と輸送実費とを支払つたのを受取つたものであつて旅客から運送契約に基く運賃の支払を受けたものではない。従つて、被告人等は道路運送法第三条第一項に規定された一般乗用旅客自動車運送事業を経営した者に該当せず、又同法第二条第二項に規定された自動車運送事業を経営したものでもないというのである。

よつて案ずるに、原判決挙示の証拠を綜合すれば、所論の自家用自動車により輸送されたいわゆる一般組合員は一万名を超える多数であるが、これらの者は、その実態を調べてみると、組合への加入申込には何等の資格制限もなく、誰でも出資金一〇〇円の内金名目で一〇円を払込んで加入申込書に住所氏名等を記入し組合員証を渡されるだけでいわゆる一般組合員たる資格を取得するものとされており身元確認もなされていないため加入申込書の記載には偽名等虚偽の記載も多く、またその大多数がいわゆる専従組合員から車を利用する機会に「この車は共済組合の車だから組合員証がなければ乗れない」という程度の簡単な説明を受けるだけで、組合の趣旨、目的等についての説明は殆んどなされず、又自らその認識を得ようとする態度に出ることもなく、唯組合の自家用自動車の利用については、一般に、他に営業用タクシーが附近に見当たらないとかあるいは料金の安いタクシーというような考えで乗客としてこれを利用するというだけであり、自ら組合員たるの自覚を持たない者ばかりであるのみならず、他面定款の規定の上ではともかく、組合員として組合の運営に参加する機会は現実には全く与えられないことが明らかであつて、組合の構成員としての実質は全く伴つておらず、むしろ右のように形式上組合加入の手続をとらせたのは単に名目上組合員たらしめようとする脱法行為とみられるのであり、結局いわゆる一般組合員なるものは実は道路運送法第二条第二項の旅客たる他人に該当するものと認めざるを得ないのである。従つて所論主張のように組合加入の手続がとられ形式上組合員となつたからといつて、これをいわゆる特定人であるとは到底認められない。そして所論の組合費、輸送実費の名目で収受された金員は、前記証拠によれば、いわゆる一般組合員すなわち旅客である他人から走行距離に応じて計算した額を基準として算出した金員を運送の対価として支払われたもので、実質的には営業用タクシーの料金とみられるものであり、その額は普通の営業用タクシーの料金に比して低廉であることは事実であるが、ガソリン代、修繕費、自動車償却費その他の実費を上廻る金額であつて営利の目的があつたものであることが認められる。以上のとおり前掲各証拠によれば被告人等の本件行為は他人の需要に応じ自家用自動車を使用して有償で旅客運送行為を反覆継続してなしたものと認められるのである。そして右証拠によれば原判示事実はすべてこれを肯認するに十分であつて、記録を精査するも原判決には所論のような事実誤認の廉は発見することができないから、論旨は理由がない。

同第三点、憲法違反の主張について。

所論は、道路運送法第四条は一般乗用旅客自動車運送事業を経営しようとする者は運輸大臣の免許を受けなければならない旨規定しているが、右規定は憲法第二二条の保障する職業選択の自由を奪うものであつて違憲の疑があると主張するのである。案ずるに、憲法第二二条にいわゆる職業選択の自由は無制限に認められるものではなく、公共の福祉の要請がある限りその自由が制限されることは明文上認められるところである。そして、道路運送法の目的とするところは、同法第一条の規定するように、道路運送事業の適正な運営及び公正な競争を確保するとともに、道路運送に関する秩序を確立することにより、道路運送の総合的な発達を図り、もつて公共の福祉を増進することにあり、同法第四条において自動車運送事業を経営しようとする者は運輸大臣の免許を受けなければならない旨定められているのは、前記右法律の目的を達成するため右事業を経営することを免許にかからしめたものであり、それは公共の福祉のための営業の自由に対する制限というべきであつて、何等憲法第二二条に違反するものというべきでない。それ故右違憲の論旨は理由がない。

同第二点、量刑不当の主張について。

所論は原判決の量刑不当を主張するのであるが、記録並びに当審における事実取調の結果を精査検討し、これに現われた本件犯行の動機、態様、被告人等の経歴、犯罪後の情況等一切の事情を併せ考えると、原判決の量刑は相当であつて重きに過ぎるものとは認められないから、論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷川成二 白河六郎 小林信次)

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